Schleiermacherの日本語表記について

戦前(1945年以前)の研究書などでは、昭和9年発行の大島豊著『シュライエルマツハアの信仰論』ような例外もあるが、「シュライエルマッヘル」と表記されているものがほとんどで、例えば石原謙訳『シュライエルマッヘル宗教論』(内田老鶴圃、大正3年)、F.グンドルフ『シュライエルマッヘルの浪漫主義』(岩波書店、昭和5年)、渡辺泰三著「シュライエルマッヘル」(弘文堂、昭和13年)、篠原助市『シュライエルマッヘル』(岩波書店、昭和14年)などである。

戦後も佐野勝也・石井次郎訳『シュライエルマッヘル宗教論』(岩波文庫、昭和24年)、石井次郎著『シュライエルマッヘル研究』(新教出版社、昭和23年)など、同一の表記が続くが、その後1960年代以降は「シュライエルマッハー」が佐藤敏夫高森昭等の研究者によって用いられるようになる(高森昭「日本におけるシュライエルマッハー研究の70年(1914‐1984)」神学研究第33号参照)。

しかし、1986年発行の『キリスト教人名辞典』(日本基督教団)は、原音にできる限り近付けるという立場から「シュライアマハー」とし、1998年発行の『哲学・思想事典』(岩波書店)は「シュライアーマッハー」と表記している。最近の研究書や論文では、「シュライエルマッハー」「シュライアマハー」「シュライアーマッハー」などが、混在して統一のない状況を呈している。例えば、山崎純『神と国家』(創文社、1995年)は「シュライアーマッハー」を、瀧井美保子「シュライアマッハーの『宗教論』」(シェリング年報第5号、1997年)などである。

私自身は直接指導を受けた佐藤敏夫高森昭の影響もあり1991年の第一論文以来、「シュライエルマッハー」を用いてきたが、以上のような状況を省みて、1998年10月以降は「シュライアーマッハー」と表記してきた。

しかるに、2005年3月24日〜30日に高輪プリンスホテルを会場に行われた第19回国際宗教学宗教史会議世界大会(IAHR)のおいて、ドイツからGuenter Meckenstock氏、韓国よりShin-Hann Choi氏をゲストに迎え、高森昭、水谷誠、川島堅二の5名でSchleiermacher and religionsというパネル発表を行った後に、日本語表記について改めて話し合う時を持った。その際、Meckenstock氏より、第二音節のer短い「ア」がよいという示唆を受けた。アクセントが第一音節の「ライ」にあるので、それに続くerは、弱く「ア」と発音することになる。それは、他の例ではFeuerbachを「フォイエルバッハ」(現在の日本語訳ではこの表記が多く用いられていると思うが)と発音せず、「フォイバッハ」と発音するのと同じだという。

そこで、これを機に私は「シュライアマハー」を用いていくことにする。先に述べたように日本基督教団出版発行の『キリスト教人名辞典』が、この表記を用いているのと、「シュライアーマッハー」よりも二字分少なく引き締まった感じになるし、日本のキリスト教界に大きな影響力を持つ神学者加藤常昭氏が、最近の翻訳等でこの表記を用いているため、日本のキリスト教界では、この表記が一般的になりつつあることも、この表記採用の理由である。